高齢者の「旅行」で使える家庭の医学旅の医学

病気だと旅行に行けないと信じていませんか?

医学的には、急性期の病気(手術の直後、脳卒中の直後)などを除いて、慢性の病気では旅行に何の障害もありません。もちろん、高齢でも旅行に行けない理由にはなりません。脳卒中でマヒがあっても、車いす等で支障なく旅行はできます。大事なことは、まずは気持ちの面から「あきらめて」しまわないことだと思います。

ユニバーサルツーリズムにおける旅行の効用と旅行を「場面別」と「疾患別」に分けて説明しております

「場面別」では、「移動」「トイレ」「入浴」「食事」「宿泊」の場面で気をつけることなどの解説、「疾患別」では、「心臓病」「糖尿病」「脳卒中」「脳卒中後遺症」「酸素吸入」「がん」「人工透析」についてそれぞれ解説しています。少しでも皆様のお役に立てればと心より願っております。

旅行による効用の考え方

移動や日常の生活に制約がある”高齢者”や”障害者”に着目した効用の検証

旅行全般の効用とされる心身のリラックス効果(心の変化、身体の変化)+行動の変化

UT(ユニバーサルツーリズム)における効用の考え方

図:UT(ユニバーサルツーリズム)における効用の考え方

効用調査の結果

旅行経験者へのアンケート調査

旅行体験に基づく身体機能の変化、旅行の効用に関する意見

  • 心の変化

    • 人生を楽しむという精神面が向上した。もっと元気になろうという意見が湧いた。
    • 旅行にいくことで、元気と笑顔が生まれる。
  • 行動の変化

    • 外出の回数を増やすよう努力している。リハビリもできる限り行くようになった。
    • 旅行に出ることで沢山の友達ができて、メールや電話などもかわすようになった。
  • 身体の変化

    • 車いすを使用せずに、歩行可能な距離が増えた。
    • 要介護5から要介護2になった。杖を使用して300mほど歩けるようになった。
  • その他

    • 「また旅行に行きたい」と希望が生まれ、「次はどこに行こうか」と話題が増えるなど、楽しい時間が増えた。
    • 他の参加者と一緒に行動できることに喜びを感じた。

旅行の効用のまとめ

一時・短期的効用(旅行前・旅行中・旅行直後) 中・長期的効用
心の変化
旅行前
  • 旅行への期待
    旅行の主な目的は、「1位:趣味・楽しみ」、「2位:息抜き」、「3位:初めて訪れる場所の文化や地元の人々との触れ合い」
    (※旅行経験者アンケート結果)
旅行中
  • 旅行先での満足感、幸福感
    観光地や初めて訪れる場所への訪問、訪問先での体験、サポーターや同行者との出会いに満足感を感じている
    (※モニターツアーアンケート結果)
  • 日常生活への意欲
    旅行経験者の約70%が体調管理への意識・意欲が増加したと回答
  • 外出への自信
    旅行経験者の約72%が移動や外出への自信が増加したと回答(特に、初めての旅行後は約81%が増加したと回答)
  • 次回旅行への期待
    モニターツアー参加者10名中7名が「また旅行に行きたい」と回答
  • 心の豊かさ・楽しみ
    人見知りが減少し、自分に自信が持てるようになった
    人生を楽しむという気持ちの面が向上した、もっと元気になりたい(※旅行経験者・自由意見)
行動の変化
旅行前
  • リハビリ回数の調整、体調管理
    事前の体調管理や準備を「1か月前」から始める方が最も多い
    (※旅行経験者アンケート結果)
    旅行前の準備として睡眠時間の調整や食事の管理を実施する方が多い
    (※モニターツアーアンケート結果)
旅行中
  • 外出機会の創出
    旅行先での歩行
    旅行先だと自然と体が動き、いつもより長い距離を歩いている。
    (※モニターツアー参加者へのヒアリング結果)
  • 外出頻度・旅行回数の増加
    初めての旅行後に外出機会が増えたと50%の旅行経験者が回答
  • リハビリの回数の増加
    旅行を目的として継続的にリハビリに取り組む方が多い
    (※横浜市リハビリテーション事業団へのヒアリング結果)
  • 社会参加・集団行動への参加
    旅行を通じて仲間ができ、電話やメールで連絡をかわしている(※旅行経験者・自由意見)
    同じ障害のある方と触れ合い、悩みや困りごとを相談できた(※旅行経験者・自由意見)
  • 通院回数の減少
    旅行経験者の約5%が旅行を経験することで通院回数が減少したと回答
身体の変化
  • ストレス状態の緩和、身体機能の活性化
    景色をみたり、人と触れ合うことがいい刺激となり、気持ちが明るくなる
    (※モニターツアーアンケート結果)
    唾液アミラーゼ活性の測定値が低下
    (モニターツアー参加者6名全員が入浴後に数値が低下)
    POMSによる気分プロフィール結果より「活気」の数値が上昇
    (積極性や前向きな気持ちが上昇)
  • 身体機能の維持、回復
    旅行経験者の約37%が身体機能の変化(向上)を実感
    自宅以外のトイレが利用できるようになった(※旅行経験者・自由意見)
  • 歩行レベルの維持、回復(高齢者、肢体不自由)
    歩行距離が延びた、杖を使用して歩ける距離が延びた
    (※旅行経験者・自由意見)
  • 介護レベルの低下(介護予防効果)
    要介護認定のレベルが要介護5から、要介護2になった(※旅行経験者・自由意見)
  • コミュニケーション能力の向上
    旅行後2~3日は言葉がスムーズに出て、言語障害が良くなったように感じる(※旅行経験者・自由意見)
  • 健康増進
    旅行経験者の約81%が、旅行による健康増進効果が期待できると回答